頭痛外来のご案内:最新の頭痛医学に基づく診断と治療

「頭が痛いけれど、市販のロキソプロフェン(NSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬)を飲んでいればそのうち治るだろう」

このような自己判断による漫然とした鎮痛薬の服用は、頭痛を慢性化させるだけでなく、非常に危険な病態を見逃す原因となります。鎮痛薬を月に10〜15日以上使用し続けると、脳の痛みを制御する神経系が過敏になる「中枢性感作(Central Sensitization)」を引き起こし、かえって頭痛が頻発・重症化する「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛:MOH)」に移行するリスクが高まります。また、わずかな刺激を激痛として感じる「異痛症(アロディニア)」を併発することもあります。

当クリニックの頭痛外来では、国際頭痛学会(IHS)が定める「国際頭痛分類第3版(ICHD-3)」および最新の診療ガイドラインに準拠し、診断と、患者様ごとの病態に即したテーラーメイドの治療を提供いたします。

中枢性感作とは「脳が痛みに過敏になり、痛みのブレーキが効かなくなる状態」です。

異痛症(アロディニア)とは「髪をかすめる、風が当たるなどの通常痛まない刺激でも激痛を感じる状態」です。

【1】 当院の専門的な診療・検査プロセス

詳細な問診(医療面接)と頭痛ダイアリーの解析

頭痛の発症様式(急性・亜急性・慢性)、持続時間、拍動性の有無、随伴症状、トリガー因子を詳細に聴取します。「頭痛ダイアリー」を用いて発作の頻度や鎮痛薬の服用歴を定量的に評価し、MOHのスクリーニングや月経周期との関連性(月経関連片頭痛)などを解析します。

画像診断(頭部MRI・MRA・MRV・CT検査)

脳実質の異常(脳腫瘍、脳出血、脳梗塞)を評価するMRI(T1/T2/FLAIR/DWI画像)に加え、MRA(MR血管画像)で未破裂脳動脈瘤や脳動脈解離、もやもや病などの動脈病変を、MRV(MR静脈画像)で脳静脈洞血栓症(CVST)のリスクを評価します。

検査の即日性:当院では1.5テスラMRI・16列CTを完備しており、必要に応じて受診当日の画像検査を実施します。

血液生化学的検査

感染症(髄膜炎など)や自己免疫疾患、全身性炎症(巨細胞性動脈炎:GCAなど)、甲状腺機能異常など、全身疾患に伴う二次性頭痛を除外するために実施します。

基幹病院との連携

万が一、緊急の手術や入院治療が必要と判断された場合は、連携する基幹病院(東海大学医学部付属八王子病院、東京西徳洲会病院など)へ速やかに紹介・搬送いたします。

【2】 一次性頭痛(器質的疾患を伴わない頭痛)の病態と最新治療

脳や血管の構造的異常を伴わず、神経伝達物質や神経回路の機能異常によって引き起こされる頭痛です。代表的な頭痛として片頭痛を取り上げます。

片頭痛(Migraine)

病態メカニズム:近年、片頭痛は単なる血管の拡張ではなく、「皮質拡延性抑制(Cortical Spreading Depression: CSD)」と呼ばれる脳表面の電気的な波が前兆(閃輝暗点など)を引き起こし、それが三叉神経を刺激することで発症するという「三叉神経血管説」が確立されています。この過程でCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)などの強力な血管拡張・炎症起因物質が放出され、無菌性髄膜炎状態を引き起こし、ズキンズキンとした拍動性頭痛や光・音過敏(Photophobia/Phonophobia)、悪心を生じます。

最新治療:急性期治療には、従来のトリプタン系薬剤(5-HT 1B/1D受容体作動薬)に加え、心血管系への負担が少ないジタン系薬剤ラスミジタン(レイボー®)などを導入。予防療法としては、画期的な分子標的薬である抗CGRPモノクローナル抗体製剤(ガルカネズマブ[エムガルティ®]、エレヌマブ[アイモビーグ®]、フレマネズマブ[アジョビ®]等)の皮下注射に加え、新たに経口薬(ナルティーク®、アクイプタ®)も登場し、治療の選択肢が大きく広がったことで劇的な発作頻度の低下を実現しています。

【3】 二次性頭痛(生命の危機に直結する器質的疾患による頭痛)

くも膜下出血や脳出血、脳腫瘍などの代表的な脳疾患について、病態、原因、症状、治療法を解説します。

1. くも膜下出血(SAH: Subarachnoid Hemorrhage)

脳を包む3層の膜(硬膜・くも膜・軟膜)のうち、くも膜と軟膜の間(くも膜下腔)を走る血管が破裂し、脳の表面に血液が広がる疾患です。

主な原因

  • 脳動脈瘤の破裂(約85%): 脳の血管の一部がコブ状に膨らんだものが破裂する。
  • 脳動静脈奇形(AVM)の破裂、頭部外傷など。

特徴的な症状

  • 「バットで殴られたような」突然の激しい頭痛(人生で経験したことのないレベルの激痛)。
  • 嘔吐、意識障害。
  • 首の後ろが硬くなる症状(「項部硬直」などの髄膜刺激症状)。

治療法

  • 再出血を防ぐための緊急手術が最優先されます。
  • 開頭脳動脈瘤クリッピング術: 頭を開けて動脈瘤の根元を金属クリップで挟む。
  • 脳血管内治療(コイル塞栓術): 太ももの血管からカテーテルを入れ、動脈瘤の中にプラチナコイルを詰めて血流を止める。

2. 脳出血(Intracerebral Hemorrhage)

脳の組織(脳実質)の中を通る細い血管が破裂し、脳の内部に血の塊(血腫)が形成される疾患です。血腫が周囲の脳組織を圧迫したり破壊したりすることで障害が生じます。

主な原因

  • 高血圧(最大の要因): 長年の高血圧により脳内の細い動脈が動脈硬化を起こし、もろくなって破裂する。
  • 脳アミロイドアンギオパチー(高齢者に多い血管の変性)、アスピリンやワルファリンなどの抗凝固薬の内服など。

特徴的な症状

  • 片麻痺: 体の片側(手足や顔面)の力が入らなくなる。
  • 言語障害: 言葉が出にくい、相手の言葉が理解できない(失語症)、滑舌が悪くなる(構音障害)。
  • 感覚障害・めまい・意識障害: 出血する部位(被殻、視床、小脳、脳幹など)によって症状が大きく異なります。

治療法

  • 内科的治療: 降圧薬を用いて血圧を急速に下げ、出血の発達を防ぐ。
  • 外科的治療: 血腫が大きい場合や生命の危険がある場合、開頭手術や内視鏡下手術で血腫を取り除きます。

3. 脳腫瘍(Brain Tumor)

脳の組織やその周囲(膜、神経、下垂体など)にできる腫瘍の総称です。頭蓋骨という限られたスペースの中で腫瘍が大きくなるため、脳を圧迫して様々な症状を引き起こします。

分類と原因

  • 原発性脳腫瘍: 脳の細胞や膜から発生するもの(神経膠腫〈グリオーマ〉、髄膜腫、下垂体腺腫など)。良性から悪性まで様々。
  • 転移性脳腫瘍: 肺がんや乳がんなど、他の臓器のがん細胞が血液に乗って脳に転移したもの。
  • ※発症の詳しい原因は解明されていないものが多く、遺伝子変異などが関与していると考えられています。

特徴的な症状

  • 慢性的な頭痛: 腫瘍が大きくなるにつれて頭蓋内圧が高まるため、早朝に強く現れる頭痛(モーニング・ヘッドエイク)や徐々に悪化する頭痛が特徴。
  • 局所症状(腫瘍ができる場所に応じた症状):
    • 運動野近く:片麻痺や手足の震え
    • 言語野近く:言語障害
    • 後頭葉・視神経近く:視野障害・視力障害
  • てんかん発作: 突然のけいれんや意識喪失。

治療法

  • 腫瘍の種類(良性・悪性)、発生部位、患者の全身状態に応じて組み合わせます。
  • 手術(摘出術): 可能な限り腫瘍を摘出する。
  • 放射線治療: 摘出できない部分や悪性腫瘍に対する照射、ガンマナイフなどのピンポイント照射。
  • 薬物療法(抗がん剤・分子標的薬): 悪性脳腫瘍に対する化学療法。

3つの疾患の主な比較

3つの疾患の主な比較
疾患名 主な原因 症状の現れ方 代表的な初期症状
くも膜下出血 脳動脈瘤の破裂 突如(一瞬で) 人生最大の激しい頭痛、嘔吐
脳出血 高血圧、動脈硬化 突然(数分〜数時間) 片手足の麻痺、言語障害、頭痛
脳腫瘍 遺伝子変異、他臓器がんの転移 緩やか(数週間〜数ヶ月) 徐々に強まる頭痛(特に朝)、てんかん発作、局所症状

※手足の麻痺、言葉の喋りにくさ、経験したことのない激しい頭痛などが突然現れた場合は、直ちに救急車(119番)を呼ぶ必要があります。

そのほかにはまれではありますが、以下のような疾患も鑑別に上がります。

  • 脳動脈解離(Cervical Artery Dissection):首や後頭部の突然の激痛。椎骨動脈の血管壁が裂ける病態で、脳梗塞や若年性のくも膜下出血の原因となります。
  • 可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS):脳の血管が突発的に痙攣・収縮し、「雷鳴頭痛(Thunderclap headache:数秒から1分以内にピークに達する激痛)」を繰り返します。
  • 脳脊髄液漏出症(低髄液圧性頭痛:SIH):髄膜から脳脊髄液が漏れ出し、脳が沈み込むことで生じます。「起き上がると激しい頭痛が起こり、横になると軽快する(起立性頭痛)」のが特徴です。
  • 巨細胞性動脈炎(GCA):50歳以上の高齢者に多く、側頭動脈の炎症による頭痛や顎の痛み(顎跛行)を生じ、放置すると虚血性視神経症による失明のリスクがあります。

受診の際のお願い・トリアージについて

救急搬送の要請(119番通報):

「人生最悪の突然の激痛」「意識が朦朧とする」「ろれつが回らない・片側の手足に力が入らない」場合は、急性期脳卒中(くも膜下出血や脳梗塞)の極めて緊急度の高いサインです。躊躇せず救急車を要請してください。

発熱・全身症状を伴う場合:

38度以上の高熱や項部硬直(首の後ろが硬くなり前に曲がらない)を伴う場合は、細菌性またはウイルス性髄膜炎・脳炎の疑いが強いため、内科・救急外来での髄液検査等の迅速な対応が必要です。

小児の頭痛について:

小児期・思春期の頭痛は、小児片頭痛に加え、自律神経系の発達過程で生じる「起立性調節障害(OD)」や心因性の要因が複雑に絡むことが多いため、まずは小児科専門医(小児神経専門医)の受診を推奨いたします。

参考資料 PDF

ズームアップけんこう「片頭痛」

監修:下田 雅美 先生
けんこうさろん NO.226(2023年秋号)

資料を見る(PDF)(新しいタブで開きます)

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